マニフェスト 西原しげき紹介 8つの約束 一言コラム かわら版 レポート メールマガジン

 

静岡県教育視察団報告記
(1)ロスアンジェルス編
PTA活動はNPO
西海岸特有のからっとした陽気と刺すような日差しを受け、時差ぼけ解消のためビバリーヒルズやロスのダウンタウンを楽しむ。しかし今回の視察はハードなスケジュールであるため、夕食もほどほどにして明日の研修にと意気込む各団員たち。
「しっかり資料調べてきましたよ!」深沢副団長(県教育委員会社会教育課長)から、どさっと渡されたファイルは、ホームページをダウンロードしてプリントアウトしたもの。明日訪問する小学校と高校そしてチャータースクール、更にカリフォルニア州のPTAまで、詳細な資料である。
できたら日本語に訳しておいてほしかったが、ここまでインターネットで調べていただいたご苦労に感謝する。しかし、アメリカの小学校はたいしたものである、学校の沿革はもちろんだが、授業の内容から、先生の紹介、更にはPTAの理念や連絡先まで詳細に記載されている。眠い目をこすりながら資料に目を通し悪戦苦闘する。
翌日、ホテルでカリフォルニア州PTA協会副会長のジェーン女史と落ちあってスタートする。彼女が一日の案内をしてくれる。
「MANY VOIC ONE VISION」
大柄な体で自信気に語るジェーンさんは、PTAの理念についてこう語る。つまり、「子供の教育に関して、保護者からたくさんの意見を出してもらうが、PTAは団結して目標に向かって努力している」と言う意味らしい。
ボランティアとしてPTAに関わって25年になる彼女にはお孫さんもいると言う。PTAはNPOで組織されていて、年齢制限はないらしい。PTAの仕事は、子供たちの教育環境を向上させること。目標の一つに、少人数学級の実現があった。「PTAの運動の成果で、2年前、幼稚園から小学校3年生までの35人学級を、20人学級にすることができました」彼女の話には説得力がある。
リーディングトゥギャザー
視察団が最初に訪問したアロヨビスタ小学校で、彼女の話を現実に見ることになる。一クラス20人の小さな子供たちが、二人の先生と楽しそうに勉強をしている。驚かされることは、どの教室にもコンピューターが置かれていることだ。それも意外と新しいマックコンピューターだ。プリンターも置かれている。一方、ソフト面の充実に対して、1929年に建設されたという校舎はお粗末である。しかし州政府の建設補助がない中で、地区の教育委員会や市民の支援で建て替えが進んでいた。これもPTAの努力が実っていると言う。
中庭の陽だまりで先生を囲んで輪になって本読みをしている。
「読み聞かせにボランティアのお母さんが参加されているんです」
リーディングトゥギャザー(いっしょに読書)ということで、PTAが積極的に学校のプログラムに参加している。もちろんそれに伴ってのミーティングやニュースレターの配布なども盛んに行われている。「PTAのウエッブサイトも積極的に運営されています。」持参の資料に思わず目が行く。PTAの役員に母親ばかりが目立つので質問すると「父親も夜には参加しています」の答えがかえる。
日本を外から見る
次に訪問したロス市内のサンマリーノ高校(SAN MARINO HIGHSCHOOL)では元気な中国系のPTAの代表者が案内してくれる。日本のお母さんもPTAとして3人ほど案内に同行してくれる。
ここでも校舎の建設にPTAが活躍する。「学校建設に市債を発行しますが、その承認の基準を緩和するよう州政府に要求しています。今回の選挙の争点の一つです」大統領選挙と合わせて、各種の住民投票も行われる。
日本から転勤で来ているというお母さんが「日本には子供が小学生低学年までいましたが、閉鎖的ですね。幼稚園は、親の応援を歓迎してくれましたが、小学校になると学校が嫌がりました。狭い教室の中で何が行われているのか分かりません。ここでは積極的にPTAを学校行事に参加させます。」
少し広くなった教室で私たちを歓迎してくれたのは校長補のマリアン先生始めPTSAのみなさん。ここではS(STUDENT)が構成メンバーとなっている。生徒(S)の代表4人が自己紹介を行う。その中の一人、日本から小学校6年の時来たヨウコさんが最後に話す。「自分のしたいことが探せる学校です。16歳の時から自分の好きな授業が取れるようになりました。ビジネスやコンピューターが分かるようになっているし、スポーツも生徒中心になっている。この学校に誇りを持っています。」
こちらに来て何を一番感じたかという問いに
「日本を外から見ることができました。」
怪訝な顔をするわたしに、にこっと笑いながら
「広島原爆は絶対許せないと思っていました。でもアメリカに来たら、あれはやむ終えなかったと言うことになっていました。それが教科書に書いてあるのです。戦争も立場が変われば見方が変わるということに気がつきます。日本ではそれに気がつくことができないないと思います。」
きちっとした説明に彼女の明晰さを感じる。
「将来の職業は」との問いに「大きな夢は、国連で働くことです。そのためにLOW SCHOOLに行きますが、日本の大学にします。」わたしの息子と同じ年の彼女に「がんばって!」と激励して高校を後にする。
教育と選挙
PTAのジェーン副会長に質問をしてみる。
「大統領選挙の争点に教育問題があるが、民主党と共和党の違いは何?」
熱心に説明してくれるが要約すると「共和党は小さな政府。ビジネスのことはビジネスマンと言う考え方で、教育についてもできるだけローカル(州政府)に任せて政府は手を出すべきではない。それに対して、民主党は貧しい人を救わなければならない。そのために政府が出て行ってパブリックスクール(公立学校)を充実していく」と言うことらしい。
今話題となっているチャータースクールは共和党の政策だが、中道政策のクリントンはこの制度について積極姿勢を示している。
「私たちはチャータースクールに好意的です。対抗していません。ただしチャータースクールのほうが親の学校へのかかわり方は大きくなります。PTAのボランティア契約とか学校へのかかわりが深いのが特徴です。」
「ブッシュの教育券には反対です。」に「PTA協会は民主党支持ですね?」と質問を向けると「私たちはどちらも支持していません。政策を支持するか反対するかのキャンペーンをします。」NPOなので、政治活動はきびしく国税当局から規制されているが、PTAはなかなか侮れない団体だ。
チャータースクールと親の参加
閑静な住宅街の一角に位置するウエストウッドチャータースクール(WEST WOOD ELEMENTARLY CHARTER SCHOOL)は目立ちにくいし、入っていっても、これって最初から学校の建物なのかと疑ってしまうほど古い感じがする。
公立小学校だったのを、チャータースクールに移行したので古い感じがしているのだった。スタートして7年経つが、経営は結構厳しそうだ。
子ども達はどこでも一緒、明るいし、のびのびとしている。
ここでもPTAはお母さんだけしか出てこないことに質問が出る。
「今は昼なので母親だけですが、夜や日曜などには父親が積極的に出てきますし、昼でも、子どものことで退社できる権利が与えられていますので、そのほうでも皆さん活動していただいています」
この法律は、Parent Involvement法と言って州法として「学校と親と教師・スタッフで計画を推進する」体系の中で、5年前に施行された。親が子供の学校活動に参加できるように、1年40時間の無給休暇取得が認められている。従業員50人以上に適用とあるように、日本でも検討したいアイデアだが、中小企業にとってはずいぶんと厳しい内容で実際の運用については低いと思われる。
PTAの使命
カリフォルニア州PTA協会は、10人のスタッフで運営されている。
170万人の会員が支える協会のオフィスはかなり立派である。
建物の中には、役員の部屋が数室と、会議室や、印刷室(ここはちょっとして印刷製本工場)それに食堂などがきれいに配置されている。
PTA協会の目標は、生徒に教育力をつけること、そして健康管理だ。もちろん地域社会との交流にも力を入れている。ユニークなのは、ペアレント教育(両親の教育への介入を増やす)。「現在芸術に力を入れています。」州はこの予算をカットしてきているが、音楽発表、ドラマ、ダンスなど親を学校にひきつけるマグネットになるのでPTAとしては積極的に応援している。
さらにジャックガン対策。アメリカは銃社会だが、ここに来て規制の気運が大きい。しかし一方で「銃を持つ権利」も謳われる奇妙な国であり、憲法改正まで含めた議論を進めていくと意気込む。
「アメリカは銃で子どもが死ぬ率が世界一高いです。日本はゼロですからすごい!」変なところで誉められた。
補導委員を勤める我が団員の質問に
「学生の出席率が悪くて問題がありそうだと、PTAと学校区と警察でその両親と本人を呼び出します。そして契約書を書かせて更正につなげます。さらにそれに従わなくて悪い場合には、州の弁護士が両親を訴えます。収入にあわせた罰金刑が科せられます。」
アメリカらしいシステムだが、どうも非行予防システムはありそうもない。

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