マニフェスト 西原しげき紹介 8つの約束 一言コラム かわら版 レポート メールマガジン

 

平成15年度静岡県議会新エネルギーと
福祉海外事情調査(速報)

11月12日
 
朝から雨。
幸い今日は室内での視察。
昨日のハードな移動の後とあって少し遅めの朝食(といっても7時半にはほとんど全員がレストランに)をとって10時にホテルの地下会議室に集合する。


財団法人自治体国際化協会のパリ事務所、伊藤次長と酒井所長補佐からフランスの地方行政の概要と話を聞きます。
この団体は、総務省と各県や市などから出向された職員によって構成されている団体です。


「すりが多いですから気をつけてください!」
フランス赴任して2年半になる伊藤さんはいきなりフランスの物騒なことを強調する。
長く住んでいる人にとってはいいシステムだが短期滞在する人にはやさしくないフランスのようだ。

フランスの自治体は、州と県とコミューン(市町村)の3層構造によって成り立っています。
フランスは人口が、5,900万人。55万平方キロで日本の1、5倍。パリに人口の1/6が集まる。2/3は平野である。
樺太よりも緯度が高いが、大西洋暖流の影響で暖かい。
フランスのイメージは原発大国である。
1958年のドゴールによって樹立された第5共和制が続いている。
5年任期の大統領の権限が非常に強い。現在シラクが2期目で、下院は保守中道の国民運動連合が圧倒的に強い議会。
社会党は前回の選挙で激減した。日本と似ている。

上院は、州や県の代表者によって間接的に選ばれる。
上院はそのために「地方の意見の代表」となる。
日本のように同じことを両院でやる無駄はしない。

選挙でおもしろいのは、下院は「小選挙区2回投票制」
一回目で過半数かつ有効投票数の4分の1を獲得すれば当選。該当がない場合には、12.5%以上を獲得した者で再度選挙を行い相対多数を得たものを当選とする。

地方議会の当選もおもしろい。
コミューンでは、多数派プレミアム付き名簿式2回投票などと言った制度がある。
一番の政党が、議席の半分を総取りする。残った半分を、1番の政党を入れて比例配分をする。フランスの個人主義で多様性のあることの裏返しで、小党分裂の危機回避で絶対多数にして運営する。「勝った所にとにかく任期中は任せて責任をとらせる」ということらしい。

フランスの地方分権は遅れていました。
1982年のミッテラン大統領のとき、大きく変わりました。
1. それまで県知事は官選でした。それを県議会議長が執行機関として知事になることになりました。州も同じです。州議会議長が州知事です。議会が執行機関を作ります。
2. 州は4〜5県です。日本の県ぐらいの規模です。
3. 後見監督を辞めました。「地方は未成熟だから国が見る」この考えを改めました。事後チェック性にしました。
「県とコミューンでも権限の移譲をたくさんしました。もちろん財源の移譲も」と日本の地方分権が進まないいらだたしさを伊藤さんは示唆します。

コミューンは概念が難しい。
市町村と考えていいが、パリも数百人の村も入る。
コミューンの数は36,500。日本の10倍ある。
その90%は2000人以下だ。
10万人以上は36しかない。
もっとも議員はボランティアだし、議会も夕方開かれる。退職した方が多いという。どこでも議長が市長・首長をかねる。日本には概念がないので、長のことをメール(maire)という。

仕事の分担。
コミューンは、国土計画から都市計画、特に幼稚園と小学校のハード建設。
県は、社会福祉が大きな仕事と権限がある。
交通やバス路線の確保などもある。

州は1982年にできたので仕事が少なかったが、EUの中で地域開発補助金の受け入れ機関となって権限をつけてきた。
また、今までは法律上の州だったが、憲法の改正で憲法上も州が地方団体と認められた。今後州の権限が強くなってくる。

フランスでは日本の今やっている合併を1971年にやろうとした。しかし、38,500が36,500になっただけで失敗に終わった。
画一的過ぎる。生まれた町を大切にする。名前を消したくない。などの理由でやめた。

そのかわり広域行政が盛んだ。
一部事務組合だが、上下水道からごみ処理、電車、道路、公営住宅と手広い。
組み合わせも、コミューン共同体、都市圏共同体、大都市圏共同体と多様だ。
おもしろいのは、そこに税源を移譲してしまうこと。
だから、参加コミューンは仕事とお金が両方減ってしまう。
でも、合併しなくても大丈夫と言うわけだ。

広域の組み合わせは、コミューン同士から、県同士、州同士、さらに州と県でもいい。商工会議所や農協などでもなんでもありだ。
この国の自治体は農業を扱っていない。
理由は農業は国直轄だから。
EU域内の農業保護のために、農業補助金が直接の組合や農家に行く仕組みになっている。
自治体は絡まない。もちろん全国に出先がある。

地方財政は少ない。日本は国対地方は1:2だが、フランスでは2:1。
教員はすべて国家公務員。税金の徴収も地方分も国がやってくれる。出納も国がまとめて払う。最終的には実力行使の国だ。軍隊が強固だ。このお金もかかる。
フランスは、国家が前に出ている。
酒井副所長から少子化のデータ説明がある。
出生率の最近の向上理由について、社会保障の充実、教育に金がかからない、移民が多いなどの理由があげられた。これは午後の調査に送るとする。

午後は、全国家族手当金庫でフランスの少子化対策をはじめとした社会福祉を調査しました。
市の中心から、30分くらいセーヌ川のほとりを走ります。
とっても銀杏の黄色が鮮やか秋いっぱいの市街地モンパルナスに建物はあります。


担当のフィリップさんが熱心に話をしてくれました。
フランスの五つの優先施策。
乳幼児保育、大家族支援、住居支援、片親(シングル)支援、所得政策(貧困対策)。

1. 乳幼児保険について
手当ての予算の43%がここに使われている。
来年の1月からこの支援策がさらに強化されると言う。
この制度の目的は、生まれた後にどのような育て方をするか、家族で計画を立てるのを支援します。つまり、産後休暇の後に、仕事をやめるか、仕事を続けるか家庭が選べるように支援します。チョイスができます。
フランスの女性就業率は他のヨーロッパ諸国と比べて高い。
就業率が80%を超えるが出生率は低下していない。

アイルランドとフランスが出生率1.9%を保っているが、ドイツや南ヨーロッパは下がっている。手当てをすべての母親に出している。
来春からはそれが、毎月800ユーロを3歳まで出すようになる。
父親でも仕事に付かないで育てたいと言うことであれば出る。
3歳までそばで育てると言うことになれば、給料の半分を手当てとして出している。
平成5年に北欧では視察した。当時すでにこの制度は1歳半までと言うことで実現していたことを思い出す。

問題は、子どもが3歳になったときでも母親が仕事先で再雇用してもらえる条件がどのようになっているかだが、確認はできなかった。

出産してもそのまま働きたい母親のためには、集団保育や個人保育の制度がある。これもチョイスできる。
「子どもが幸せになるためにです!」フィリップさんは強調する。
個人保育と集団保育に付いて良い悪いがあるとした上でこのような指摘をした。
集団保育では病気にかかりやすい。
しかし、かかることによってワクチン効果で将来のためには良い?個人保育は(母親か個人認可保育)言葉を覚えるのが早い。
希望に添った保育でよい保育の仕方を選べる。

所得支援では、低所得者向けに費用支援をする。子どもにかかる費用が親の所得の12%を超えないように支援する。
自由に家族政策がやれるように、女性が自由に仕事をしたり社会進出ができるように支援していく!
そして人口問題で出生率が問題にならないようにしている!母子の医療検診などもやっている。


2. 大家族の支援
3人以上子どもがいる家庭は全体の19%。
子どもに対する負荷が40%になる。
ここではモデル計算式をホワイトボードに示して説明してくれる。

一人の子どもに対する努力の負荷率が、分母に収入から税金を引いたもの。
分子が子どもにかかる費用から支援費を引いたものであらわされる。
3番目の子どもは優先される。
そして3人以上子どもをもつ家庭は所得が少ない家庭が多い。住宅や医療にも問題がある場合がある。
家族支援制度にとって、子どもの権利条約が足かせになる場合がある。
しかし、この制度は子どもが対象ではなくて家族を単位として出している。
「日本には家族制度の伝統があると認識していますが・・」フィリップさんが確認するようにこちらを向く。日本の同じ制度は市町村単位であるくらいか?


3. 住居問題について
「デカルト主義だけでは行きません」
計算がものすごく複雑で、かつ社会正義は全般ではなくて、細かな微妙なものでも見ていかなくてはならないことを彼はそう説明した。
所得が低いほど、子どもが多いほど住宅支援は多く出る。

不動産市場を上げることは良くないので家賃の条件は決めてある。
フランス全土で、アパートに入っている人の50%、住宅を購入する人の20%に支援費を出している。
この手当ては、住居に対する失業手当。
住居手当は、職業(失業・就業)、結婚・離婚、出産などによって条件が変わるので毎月変更されることがある。
家族所得にあわせて行われる。たくさんの貧しい家庭がうける。
コストが違うので、フランス全土は3ゾーンに分かれている。


4. 片親家庭対策
片親家庭の98%がシングルマザーである(父親が2%)
片親家庭で育つ子どもの数はここ10年で100万人から200万人に増えた。1970年ころからこの傾向が出てきた。

1946年にはシングルは未亡人であった。
現在は、22%が未亡人、21%がシングルマザー、そして57%が離婚別居である。
1970年と今を比較すると、結婚しないで子どもができたのが7%だったのが、現在は47%になっている。フランス全体では結婚と離婚が3:1に対して、パリでは2:1。
昔は結婚して子どもが生まれる。
今は、子どもができたら結婚する。

フィリップさんは「これを家族崩壊という人がいる。しかし一方で、今は寿命が1年に3ヶ月延びている。だからカップルがずっと一緒と言うことでなくてもいい。ある時期と割り切れば」
議論はつきそうにない。

この公庫ではそんな議論はおいといて「女性が一人で子どもを育てると所得が27%少なくなる。その手当てとして支援するのが仕事」
そして、離婚別居の際にお金がかかるので1年間の保障をしている。
女性が子どもを中心にして、自分自身もアイデンティティーを構築できる。
離婚別居のとき養育費をもらえない場合家族手当でまかなえる。

管理をしていて、離婚を識別するのは難しい。
経済的のみの支援では女性の就業を推進しないことになってしまう。
一人で子どもを育てていても土日にボーイフレンドのところへ行っても行政ではそんなことに介入はしない。
片親家庭は増えている。フランスでは片親だから貧困になっている。これを支援する。


5. 貧困家庭に支援。
支援しないと毎月60万家庭が貧困家庭になってしまう。
展望として
03年度は乳幼児保育支援をしてきた。
04年は青少年の政策をやっていこうと計画している。
ヤングアダルト(若い大人)親元から出て行かない。失業手当が出ているカンガルー世代。
南フランスには岩にしがみついている貝がある。アラペットみたいと言う。日本で言うパラサイト症候群だ。
政策で悩んでいることがある。
家族手当は重要であるが、お金かサービスかがある。
女性一人で子どもを育てる場合お金だけの支援でいいのか。
家庭を再構築していく、つまりソーシャルワーカーの支援が必要ではないか。

子どもの幸せについて質的に考えると。
子どもが幸せになるにはバランスのある環境が必要。つまり両親がそろっていることである。母の声も大事だが父親のイメージも必要だ。
ところが女性(母親)の社会進出によって父親の立場が混乱してきている。

1977年「親の権力に関する法律」ができた。
子どもは外部から「やりたいと思うことに抵抗する力が必要」「ノン」という力が必要。幸せを構築するためには「ノン」が必要だ。

わが団のメンバーから「子どもの幸せには両親がいることだと言うが、この制度がすばらしいので離婚しやすくなっているんではないか?」と質問が出た。
フィリップさんは「欺瞞を解消した。今まで家族手当がなかったので離婚できなかった。」とむしろこの制度が果たす役割を強調した上で、「父親の存在は大きい。仲介者が必要」
北欧と南欧の中間で、父のイメージはラテン系。
男女共同参画も発展途上というかお国柄を感じる。

家庭と国家に付いて
本来家庭が子どもを育てる。
国家は入らないほうが良い。難しい責任を果たせない。
家庭が役割を果たせば、国家が入らなくて良い。
1970年代から80年代は企業が終身雇用でやっている時は、国はやらなくて良かった。
家族政社会策は経済と大きな相関関係にある。
自由主義経済化では、子どもを育てるのに必要な最低所得を作れない。
資本主義・グローバリゼーションは行き過ぎると家庭の崩壊を招く。
子どもがテレビばかり見て学校に行かないのは大きな問題。
2004年の国際家族年10周年のスローガンは「家族は社会民主主義の一番小さな単位」だ。

移民に付いて
「少子化、家族政策にとって移民が大きな問題だと思うが」との質問に
フィリップさんは
「家族金庫の予算の30%が移民に使われていると言う宣伝が行われたが、実際は7%で全くのでたらめ」と台頭する極右勢力に意識した発言。
「ラグビーのゴールにされることはしない」こちらも過激だ。
しかし「結論は出さない」と言うように微妙な問題を含んでいることは確かだ。

メンバーとのやり取りは「家族観」や「国家観」と花が咲きました。
フランスの少子化対策がうまくいっているのか?
移民の増加と言う側面を考えないと一概に言えない!というのが結論ではないでしょうか。