マニフェスト 西原しげき紹介 8つの約束 一言コラム かわら版 レポート メールマガジン

 

 原子燃料サイクルの現状と課題
〜六ヶ所村核燃料サイクル施設見学〜    2004.11.15~16

どんよりと空を覆った厚い雲の切れ間から、淡い太陽の光がJAL1226便の右側の翼に反射している。
先ほどまでのみぞれ霙雨にぬれた窓越しには、MD87型機独特の機体横エンジンが見える。
窓につく雨粒が一気に後方へ流れ去り、機体は三沢空港を離陸していく。
高度を上げていくと翼には先ほどと打って変わって太陽の光がまぶしく反射する。容赦なく窓越しにも差し込んでくる。
「西に向かっている」
少し大きめのエンジンの音も力強く気にならない。

 

昨日、午後3時10分の静岡発のひかりでジェット機を乗り継いで7時過ぎに三沢についた。今朝は8時に三沢を出てタクシーで約1時間かかって六ヶ所村の日本原燃へ。
途中むつ小川原工に立ち寄る。

三沢は晴天だったが、途中から霙に変わる。
ここが使用済み燃料などの上げ下ろしに使われる岸壁だ。
来る途中もずっと荒涼とした原野だが、ここも寂しい。
ここで陸揚げされた使用済み燃料は再処理工場へ運ばれていく。
ただ現在まだ再処理工場は稼動していない。
ここでは、低レベル廃棄物やイギリスやフランスから送られてくる高レベル廃棄物、さらに濃縮ウラン原料も陸揚げされる。


最初についたのは六ヶ所原燃PRセンター。
ここでは副社長の鈴木さんから概略説明を受ける。
彼は浜岡原子力発電所4号機の担当者として平成3年まで浜岡にいたと言う。
ここに来て7年になる。

むつ小川原開発は昭和40年代半ば開発を進めたが、2度にわたるオイルショックで進出する企業はなかった。740haと言う広大な原野は放置された。
しかし50年代になって500万キロリットルの日本一の石油備蓄基地が建設されると電気事業団体連合会はこの地に再処理工場建設の白矢を立てた。
昭和59年に青森県と地元六ヶ所村に要請が為され、翌年建設の協定が締結された。
13年と2兆円を超す費用がかけられた。それらは全て電力料金に含まれている。


□ ウラン濃縮工場
時代を追って施設が稼動していく。
平成4年には、ウラン濃縮工場が稼動する。
燃えやすいウラン235の濃度を0.7%から3%〜5%に濃縮する。
最終規模は、1500トンSWU/年(例:100万キロワットの原子力発電所が1年間に使うウランの量が120トンSWU/年)。現状では、1050トンSWU/年の稼動だ。
日本の原子力発電の20%程度の供給能力で、後はアメリカから供給される。
濃縮装置が心臓部だが、すべて国家秘密扱いで詳細は教えてもらえない。


□ 低レベル放射性廃棄物埋設センター
同じく平成4年には低レベル放射性廃棄物埋設センターが稼動した。
最終規模は60万立米(ドラム缶300万本)全国各地の発電所からドラム缶に詰められた状態で送られてくる。
現在まで17万本が埋設されていて、本年度1万1千本が埋設される。埋設後はコンクリートで固められ、土中に保管される。
全国の発電所内でも53万本が貯蔵されている。
将来の廃炉なども考えて、次期埋設施設の調査中である。

□ 高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター
高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターは平成7年から稼動した。
イギリスやフランスで再処理され、いらなくなった高レベル廃棄物はガラス固化されキャニスター(専用容器)に納められて日本に戻された。
高温で高レベル放射能のため30年から50年冷却されながら保管される。その後地下深くに最終処分されるが、その計画はまだはっきりしていない。
現在、1440本の貯留能力があるが、増設工事をしていて、平成21年には2880本の容量にる。
現在、892本が貯蔵されているが、後1300本ほどが返還されてくる予定だ。
将来は、再処理工場で出てきたものを受け入れていく。


□ 使用済み燃料受け入れ貯蔵施設
平成11年には使用済み燃料受け入れ貯蔵施設(プール)が完成した。
工事がずさんで水漏れが多数発見された。291ヶ所の施工不良があったと言うことで大きく再処理サイクル事業への信頼を失わせる原因となったのは記憶に新しい。
受け入れ能力は3000トン・Uで現在すでに1057トン・Uが運び込まれている。
再処理工場とのセットだから、再処理工場が動かないとこれ以上の運び込みは困難だ。
ちなみに、全国から発生する使用済み燃料は年間1000トンほど。そしてすでに今まで稼動で発生した使用済み燃料はそれぞれの発電所で貯蔵されていて、その量は約1万トンにのぼる。
再処理工場が稼動しないと、この使用済み燃料の貯蔵プールはさらに必要となる。


□ 再処理工場
さてその再処理工場が平成18年7月の正式稼動運転を目指して建設が進んでいる。
技術はフランスのコジェマ社が支援している。
すでに施設は完成し科学試験は終わり、これから実際にウランを使って試験を行う。
この試験については、青森県とウラン試験に関する安全協定を結ぶわけだが、県は国の動向を注視してきた。
それは、国レベルで「再処理はコストがかかるから直接処分を考えたら!」と言った意見が出ていたからだ。
「それでは青森県は使用済み燃料のゴミ捨て場になる!」「そんなことをするなら使用済み燃料を戻す!」と青森県や関係者は怒りや危機感をあらわにしていた。
その国の長期計画を決める国の原子力委員会が15日に開催され「安全確保を大前提に政府一体で着実に推進する」方針を改めて表明し、青森県に協力を要請した。
サイクル路線は維持された。
これで平成18年の稼動が具体的に見えてきた。
ただ、化学プラントだ。フランスの施設でも故障や事故が続出し、営業運転に入るまでには数年の期間を要したと言う。
再処理工場ではウラン酸化物とウラン・プルトニウム混合酸化物が製品として貯蔵される。この製品が使われないとサイクルは進まない。
特にプルトニウムは核拡散防止条約で日本は大変厳しく保有が制限されている。
したがって、計画されているMOX燃料の工場で作られる燃料が各地の原発で使用されてはじめてサイクルが出来るわけだ。
すでに、フランスで日本向けのMOX燃料は作られている。もちろん日本からの使用済み燃料のリサイクルによって作られて物だ。昨年フランスのメロックスで見てきました。
しかし問題はこのMOX燃料が使用されない環境にあるということだ。
現在建設中の再処理工場は、年間800トンの処理能力。(いつから本格稼動できるかは別にして)日本はすでに40トンのプルトニウムを保有している。これが使用されないと溜まる一方だが、限界がある。プルサーマル(MOX燃料の使用)が進まないと原発それ自体がとまりかねない。
一方、全国の原発からは年間1000トンの使用済み核燃料が排出される。これが敷地内に溜まり続けている。再処理路線維持の背景は、その搬出が急務と言う事情もある。
でも、六ヶ所村の能力は800トンなので、稼動できても200トンの差は貯蔵に頼るしかない。中間貯蔵の必要性はそこにある。
このい中間貯蔵施設についてむつ市が誘致を表明している。しかし、中間貯蔵と言っても「再処理」の保障はない。国の長期計画に「第2再処理工場」の記載がない。


さらに問題は、MOX燃料の加工工場の立地が正式に決まっていないことだ。
国も県も国民や県民に「サイクルの信頼性と長期計画」をはっきり示すべきだろう。

この六ヶ所村には国内最大級のウインドファームがある。
エコパワーは1500キロワットを22基稼働中だ。日本風力発電も同じクラスで20基を建設中だ。再処理と風力、意外な組み合わせかもしれないが「やませ」が巡り合わせた運命だと考えるとうなずける。


夏に「やませ」がくる。
米も取れない。
もちろん冬も厳しい。
この地域が選択せざるを得なかったサイクル施設の誘致。
そのおかげで日本のエネルギーが支えられている。
2010年までに国内で16〜18基でプルサーマルを実施する計画だ。それが順調に進んではじめてこれら施設が稼動する。
私たちの考えるべき課題は多いが電力や国ばかりに依存していられない。
今回の視察はそのようなことを考える上で意義があった。


詳細情報を知りたい方は以下のホームページを参照されたい。
http://www.jnfl.co.jp/