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静岡県教育視察団報告記
(2)サンフランシスコ編

ロスアンジェルスから空路1時間、眼下に灰色や茶色、赤色と色とりどりの塩田が見えてくると、そこがサンフランシスコだ。シロコンバレーを擁し、アメリカ経済の牽引力になっているサンフランシスコでも、わたしたちはこの国の教育の一端をつぶさに見ることができた。
好きな授業を選ぶ
少し肌寒い感じがする前庭を生徒達が登校してくる。最初の訪問校は一昨年創立百年を迎えたロウエル高校(LOWELL HIGH SCHOOL)。校長のポールチェンが丁寧にそして誇りと自信に満ちた説明をしてくれる。「卒業生はアメリカ中にいます。その25000人にニュースレターを出しています。卒業生には、最高裁判事やヒューレットパッカー社の創立者、エール大学の学長など多彩です。特に、HP社は50万ドルのコンピューターを寄付してくれました。卒業生全体としてグループで支持してくれています。(日本の同窓会?)」
入学選考では試験を行い厳しい入学基準を儲けている。アメリカでは特殊の選考システムだと校長も認めるが、入学後のプログラムにも特色がある。成績別にクラスが分けられ、優秀なクラスの生徒はAP(アドバンス プレイスメント・高校で大学の単位を取得する)の講座を受けることが出来る。この制度によって、大学に入ったとき半年程度節約になる特典がある。
この高校の特色は語学で、10ヶ国の外国語講座がある。日本語の講座の生徒が、流暢な日本語で校内の案内をしてくれる。日本では、中学で3年高校で3年英語を学ぶのに(さらに大学でもやっているが)社会へ出て英語を使える人が養成されていない。ところがこの高校では、僅か2年くらいの日本語の講座で私たちを案内して、常識的な質問に答えることができる子ども達を養成している。この教育の違いは何なんだろう。「高校までは義務教育なんですが、自分の好きな授業を自分で選べるんですよ!」
一人ひとりが、自分の好きな講座を選ぶからやる気が違う。毎時間組み合わせが変わるので、授業が終わって、2500人の生徒が教室を移動する短い休み時間の廊下は、さながら朝の東京駅の込みようだ。そのエネルギッシュの中から、力が出てくるのかもしれない。
予習がない
次に訪問したのは485人と意外と少人数のオーデュボーン小学校(AUDUBON ELEMENTARY SCHOOL)。
内海の干拓地に建てられた。すぐ横に穏やかな海面が迫り、住宅地に囲まれている。サンフランシスコ空港に降り立つ飛行機が頭上をひっきりなしに下りてくるが、校庭の青芝の上で遊ぶ子ども達は誰一人気にしない。
ここでも日本人のPTAのお母さんが3人見えてくれる。どこへ行ってもカリフォルニアでは日本人が多い。
教室の形がおかしい。聞くと、1960年代にもてはやされたオープンエデュケーションの影響の大講堂を後で区切ってたくさんの教室にしたという。どこでも教育は試行錯誤をしている。
教室は20人一クラスで、先生が二人。パソコンルームには真新しいスケルトンのマックが十分に配置されている。
「予習なんてしません。だって教科書は自分のものではないし、持って帰ると言ってもとても重たいので無理です。ノートもとっていない。日本の感覚に比べたらこれで良いのかと最初は思いました」
今はそれがあたりまえと思うようになったと日本のお母さんは語る。
帰りがけに、将来ともアメリカに永住されるというお母さんが訴えるように語っていたのが印象的だった。
「日本と比べたらはっきり言ってこちらの教育のほうが良いですね。とにかく日本はすべてにわたってアメリカに遅れをとっています。ITなどはもちろんですが、医療技術は30年遅れています。確かに医療機器は日本製がいいんですが、大学や高度研究機関の内容が違いすぎます。こちらでは企業がものすごく大学や研究機関に資金を出します。でも日本ではまったく出していませんから、いい頭脳を持った研究者は大学に残って研究など出来ません。皆、海外に出てしまいます。もっと日本の大学は変わらなければいけません。でも私は日本の文化や伝統は大好きですから、皆さんがんばってください。」最後は励まされてオーデュボーン小学校を後にした。
イッツ オポチューニティー
最後の訪問は、アボット中学校(ABBOTT MIDDLE SCHOOL)。到着したのは3時を回り子ども達は下校し始めている。
キャシー校長先生は女性。視察団には現職校長先生もいるとあって校長の資格に話題が進む。3年間の教頭を含めて小中16年のキャリアで校長は日本で考えられない。「夜学で必要な講座を受けていますし、校長になるための面談を繰り返しうけてきました。」と言うが、日本の先生が校長になるのに25年はかかるのに、アメリカの16年ちょっとは早い。
「サクセスストーリーですね!」
と言う言葉ににこっとほほえみながら舌をべろっと出すあたり、意欲と自信が読み取れる。
補導委員の団員が、非行や暴力などの問題行動が多いと思うがどのような対策をとっているのかという質問に
「ノンプロブレム、イッツ オポチューニティー」(問題なんてありません。それは機会です)とさらっと答える。
こちらが唖然としていると
「機会が与えられたんです。子供から大人になるときには、問題が起こってあたりまえ。導いて指導する機会に恵まれたんです。ティーンエイジは反抗期で、挑戦的、賢くない選択ももちろんあります。防ぐことはやりにくいと思います。したがって事後対策が中心となります。」それでも予防対策はと聞くと「スポーツをやって汗をかくこと、社会貢献を通してリーダーシップを発揮して若いエネルギーを生かすことなどです。それらに校長賞を出すこともします。」
登校拒否児童について聞こうとすると
「全てオポチューニティーです」
アメリカのおおらかで明るい考え方が見事に出ている表現に、今回の視察の重要なエッセンスをつかんだ気がした。
なかなか決まらない大統領選挙にしても、ひょっとしたら「イッツ オポチューニティー」かもしれない。
6泊8日のPTA指導者研修視察は全員無事で有意義な研修を終えることができた。この事業は、20回を迎える今年で終了するが、今回の視察研修で得られた成果を考えると新しい形で今後も継続される事が望ましいと感じた。教育こそが国の最重要施策である事を考えた時、PTAとして最大限の努力をしていく時である。

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