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ヨーロッパ視察研修
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盛だくさんのヨーロッパ研修日記 11/10
 西原しげき
11月10日
朝から小雪の舞うミュンヘン市内は、今日もどんより冷たい。
最初に訪問したのは、公共健康保健会社MDK。何をやっている会社なんだろうというのが私たち共通の疑問である。視察先を決めておいて、訪問してから「あなたのところはどんなことやっているんですか?」とは失礼なことであるが、まず最初にその疑問を通訳の高橋さん(浜松出身)に向けると
「医療保険者や介護保険者から依頼を受けて、医療や介護の認定をするところです。でも公共からは独立しているって、いつも強調していますね」
そうすると介護認定をしているところかな、などと勝手に判断して席につく。

丁寧に説明してくれる
説明をしてくれたのは、医師で、ここの最高責任者であるベルバーさん。
彼は内科の先生で、13年前からここで働いている.介護保険担当医師とのことである。
「皆さんは、ここにくる前にどのようなところを調査してきましたか?」
いきなりこちらのレベルを聞いてくる。たいしたレベルではないと確認すると彼はOHPを使って説明をはじめた。
ドイツでは10年前に医療改革があった。その時、州ごとに独立したメディカルセンターが設立された。医療保険機関から独立した(法律で保証された)中立の審査機関として設立をされた。バイエルン州にはこの機関だけで、職員は1000人を要する。
そのうち280人が医師、210人が介護士、残りが秘書やコンピューター技術者などとなっている。医師と介護士が認定の実務にあたっている。
所長(マネージャー)はブセさんと言って法律家がなっている。

説明に和む、お茶とクッキーはどこでも
州内には38の支所(相談センター)があるが、これは住民に近いところで業務ができるようにとの配慮のためである。50キロメートル以内で、住民が支所にいけるように配置されている。
ここの財源は、医療保険と介護保険で成り立っている。公的医療保険と公的介護保険である。
毎年保険者と交渉して予算を決めている。1999年度は一人あたり18マルクとなっている。全体では、1億2000万マルクとなる。
話を戻すと、ここは医療保険と介護保険に関して「認定・判定」をするところ。しかし法律的だけではなくて、保険者からの要請があれば、いろいろな業務を付け加えて遂行することがある。医療保険の仕事が60%で、介護保険の仕事が40%という構成になっている。
モノポール、競争相手はいない。利益はなくて中立性が保たれている。
介護保険については、本人から保険者に申請が上がると、そこからMDKに鑑定が依頼されてくる。さらに、専門介護士は施設検査や品質検査も行い、ちゃんとサービス提供が行われているかのチェックを行う。
また介護保険と緊密な関係を持って、一般市民への啓発普及をも行う。
最初、介護保険制度は発足するときに、ホームドクターにこの認定作業をやってもらうという案も出たが、患者との利害関係があることからやめた。今、その判断は正しかったと確信している。申請をしてきた人への拒否回答の時など、特に中立性が重要である。
MDKは、年間17万人の判定を行っている。また1000件の品質検査(施設やサービス提供者への)を行っている。この仕事は特別専門家で、国際的に認められる水準である。ヘルパーなどの品質検査は、250から300マルク。施設は、2000から3000マルク。
介護保険では、介護段階の認定が重要であるが、そのことについての説明が始まる。
ドイツでは、1970年代から介護保険導入の議論が始まり、1995年から導入された。
1995年から在宅そして1年遅れて施設介護が始まった。
介護保険が導入された理由は、核家族化、シングル化で、介護をしてくれる人が減ったことがあげられる。
介護を受ける人の年齢構成のOHPが示される。なんと0歳からあるではないか。3〜19歳、20〜39歳、40〜54歳、55〜59歳、60〜64歳などと細かく分類されている。つまり年齢の別がないのだと言うことが理解できる。老人介護保険ではなくてまさに介護保険である。
ドイツには社会保障制度が5つ整っている。
医療保険(13、5%)は1883年に整備、労災保険は1884年に整備、年金制度(19、2%)は1889年に整備、失業保険(6、5%)は1927年に整備、そして介護保険(1、7%)が1995年に整備された。( )内は保険税率。合計すれば40%と近くになる。
「これで社会保障は完備しました。これ以上の整備は今後ないでしょう!」ゲルバーさんは強調する。さらに
「今も、そして前の政権も、これ以上社会保障は上げられないといっています。私たちの財源も制限されています」ときっぱりといった。
ドイツの社会保障費の合計は、年間5000億マルクで、ドイツ年間の予算より大きい。
保険料は企業と折半だが、1、7%で年間300億マルクになる。これが介護保険にかかわる予算である。料率は注意深く判断しなければならないが、介護を要する人が増えてきているので、2030年には、1、7%から3、5%にしなければやっていけないとされている。
しかし、ほかの社会保障も同じなので、簡単にあげることはできない。そこで、サービスの上限を決めるとか、自己負担を増やしてくなどの案が検討されている。
「今までの様には行きません。自分で考えていかなければならない時代になりますよ」厳しい。
企業にとってもこの負担は大きい。そこで介護保険導入に際しては、祝日を1日減らして企業の負担を減らした。
「来週の水曜日ですが、私も休めなくなりました。でも学校の先生だけは祝日のままです!」とゲルバーさん。
300億円の収入負担はこのように企業半分と個人負担半分ですが、使い道は、在宅福祉に3/4、施設福祉に 1/4となっている。ここで重要なのは、在宅福祉のほとんどが、現金支給ということである。家族の誰かが看てくれるとき、その人に現金が支給される。家族がいない場合、隣の方でも看てくれる方に現金が支給される。特出するのは、介護する人が、特に資格を必要としないということだ。そして誰も身内で介護してくれる人がいない時には、サービスという形で現物支給される。この場合には、本人に現金は行かなくて、サービス業者に支給される。家族介護が、ちゃんと行われているかの確認チェックは、MDKで検査を行う。
ちなみに、介護度3(ドイツは3段階で3が重度)で現金支給は月に1300マルク(約7万円)、サービス支給が2800マルクとなっている。特別に、ガンなどの末期患者に対しては3750マルクとなっている。また短期休業(ショートステイ?)は3800マルク、デイケアやナイトケアが2100マルク(介護度3の場合)となっている。
1995年から始まったこの制度で、現金支給の率は60~70%。いかに現金支給が多いかがわかるし、制度の本質もよくわかる。
「もちろん、現金とサービスの併用も可能です。コンビネーションも選べます」と彼は付け加えてが。
施設介護は、介護度1で2000マルク、介護度2で2500マルク、介護度3で2800マルク(約17万円)となっている。施設は普通4000~5000マルク月にかかるので差額は個人負担。年金や財産のある人はそれをあてるし、何もない人は生活保護を受ける。
「一部を(全部でない)援助することです。それが介護保険です。」
「最初ドイツの介護保険を、国民は期待しました。政治家も選挙があったので、いいことばかり言いました。全部見てくれる錯覚を持ったのでした。しかし始まってみると、がっかりしたので、その不平や不満が窓口である私たちMDKにきました」と、導入からこの間のいきさつについて説明するゲルバーさんの口調には、政治に対する不満が聞き取れる。
彼は、さらに専門的に認定作業、つまり介護度を判定する作業について説明をしていく。
日本でも私たちはここまで詳しく介護どの判定作業について勉強したことはないのに、と思いながらも「この理詰めが国民性であり、政治もここまで勉強しなければいけない国なんだ!」と理解し、難しい法解釈に耳を傾ける。
しかし説明はわかりやすい。
「病気や障害で治療中は対象になりません。たとえば、両腕骨折でも直ればだめです。長期日常の援助が必要なことが条件です。」
日常の要綱には、21項目がある。これが4つに分類されて、1身体の援助が必要 2栄養の援助 3移動の援助 4家事家政の援助 で、特に1から3が基本的項目とされる。
つまり、1が洗顔、風呂、シャワー、排泄  2が口に入るよう食べ物を小さくすること、さらに口に入れることなど 3がベッドから起きる、着物を着る、たつ、歩く、登る、住宅から出るなど そして4が買い物、料理、掃除、洗濯、暖房するなどである。
「たとえば、部屋の花に水をやることなどができないということは、項目に入りません」説明は丁寧でわかる。
その上で介護度の判定基準について、細かく説明ししてくれるが、ここでは省略する。
ただ最初に決めた基準でいくと、介護度1の場合対象者が多く出すぎてしまうために、(つまり身の回りのことができない男性がドイツには多かった)途中で厳しくした。
この説明も、日本人である私たちにもよくわかる。
果たして、日本の介護判定の場合、ここまでの説明が、政治サイドにされたであろうか。判定ガイドラインもあるのであろうが、日本の場合は、ブラックボックスのコンピューター頼りでなんとなく釈然としない。ちなみに、この判定基準はドイツの300万人の状況を判断してデータを整理して作ったという。最初の基準が間違っていることもあった。ばらつきをなくするためにガイドラインを変えてきた。全国的ばらつきもなくなった。
最初に「できないこと」を時間に置き換えて、それの合計時間で介護度を決めてきた。果たして日本の介護保険は、このような理詰めで説明がつくだろうか。
途中(1997年)修正した、この基準は結果が良いと彼は得意そうに説明した。
後見制度について質問をすると、後見人に付いては原則家族だが、家族がいない場合には弁護士がやる。痴呆の割合が、在宅で30%、施設で50%なので、この後見制度は重要であるとのこと。
わが国で問題となっている家族への現金支給の問題点について聞く。半年とか3月に1回検査を実施している。介護士が検査をしているのでほとんど問題はないが、中には支給された現金を、家族がほかに流用してしまうケースもある。MDKでも、一定の間隔で検査を行う。
認定のばらつきについての質問で、たとえば近親者や近所の人をMDKの職員が検査しなければならない場合には、担当をほかの人に代わってもらうよう配慮している。不正などはもちろん生じない。
最後に奥之山団長より、「メディカルセンターの重要性を再認識させていただいた」と最大級の賞賛があり視察を終えた。ちなみに説明してくれたゲルバーさんは49歳、年よりもふけて見えたががんばってください。

午後は、カリタス協会デイケアセンターを訪問する。
小雪は相変わらず降り続いている。バスは少し閑静な住宅街に入った。目指す建物は、住宅街の一角にごく普通の建物として 違和感なく存在していた。
案内されたところは半地下室で、幼稚園などで言うプレイルームのようなところ。
説明は、ここの責任者のリュッケさん。
彼は、社会教育大学をでて、3年前からここで働いている。ここはカトリック系のカリタス協会が運営している。
精神が病気な人、仕事ができない人、失業者や年金受給者などが集まってくるが、ここでは治療などは一切やらない。精神障害の方が、毎日のリズムを作るのを助けることをしている。したがって治療が必要な場合はもちろん医者に行く。
ここにやってくる人は強制で来るのではなく 自由意志でやってくるが、主に医者に勧められてくる。どのくらい長く、どのくらいの時間、ここにいるかなどはすべて本人の希望次第。
若い人の精神病は、リハビリで直る場合もあるが、年寄りの人はほとんどない。
ここにくる人は、年齢的には35歳〜50歳が多い。ここでは身体的介護を必要とする人は受け入れられない。したがって、精神病の人には良いが、高齢になると無理になる。
病気の種類としては分裂症が多い。うつ病も多い。長期的慢性的な人が主で、急性的な人はいない。したがって乱暴する人もいないが、急におかしくなりそうな場合予防もできる。
空いている時間は月曜から金曜までの9時から夕方の五時まで。
メニューとしては、自由に参加できる朝食会、そしてそのあと仕事が入る。仕事といっても委託などの仕事ではなくて、日常生活の中でする、食事を作る、掃除をする、修理や庭の草の手入れ、などのことだ。
「きょうは初雪ですが、雪かきもそうですね。」
話が進むリュッケさん。
すべて自由意志なので、したい人がすることになっている。台所へ行く人、上手に水やりをする人、いろいろである。
このデイケアにくることによって、自分の生活にけじめができる。
「自分の価値を見つけるという意味で重要な作業です。ここで自分は役に立つのだということを発見します」
そのような意味で、お金も支払っているという。働く人を励ますという意味がある。
10〜20マルクで、セラピーのための褒美ということである。
税法上、月に630マルクまでは無税だが、届け出ると本人の年金が減らされる可能性があるので、現在検討中だという。セラピーの報奨金であるし、週2時間なのでたいしたお金ではないが、判断は税務署がする。
午後は自由時間で、コーヒーやケーキタイム、ゲームや新聞を読んで過ごす。
カフェテリアは人気がある。理由は、他人と話ができるし、値段もほかより安いためだ。
一人暮らしの人には、栄養もこちらで考えてやる。
ここに来る人は、一日中いる人は少ない。昼だけとか、カフェテリアだけに来るとか好みが違う。
夕方は5時に終わる。
精神障害の人は、外に行くことが少ないので、機会を作ってやる意味でも時々外にでる。
クリスマスなどの時には、精神病が多くなる。幸せと不幸が、はっきりする時期だからだが、そのような時は、施設は開けておいて いつでも来れるようにしておく。
日曜と祝日が休みだが、本当はそのような時、来たい人が多いので残念だ。
ここは、カトリック系の社会福祉団体であるカリタス協会が、運営しているが、特に信者である必要はないし、お祈りをする必要もない。施設を建設したのは、カリタス。運営費を出しているのは、上バイエルン州の7つの行政区(県)である。委託は州から。他のところでは協会と行政と折半のところもあるが、ここでは全額行政が出している。カリタス自身の収入は、寄付金と協会税の一部だが、収入は減ってきている。
行政からは、利用者×1000マルクという計算で、お金が入る。来た人に名前を書いてもらい、月10回以上来た場合には1人、6回から9回までが0、5人としてカウントする。この施設のキャパシティーは35人だが、いつもこれを上回っている。
「33人になれば、2人分の収入が減らされます。でも逆に37人になっても、35人分しかでません。11年やってきましたので、数の達成には困難ではありません。」
ほかの若い施設は定着するまで大変らしいが余裕が見られる。
これらができるのはドイツに「連邦社会扶助法」があるからだ。社会扶助法は、生活保護で、財産があればもらえないが、ない場合には届ければもらえる。しかしこの施設の場合、この方の規定に合わない部分もある。あまり厳しく規定どおりにやると、精神病の人はこない。来るまでの敷居が高いとそのようになるので、チェックなしにした。
質問がいくつかある。
障害の発生については、思春期など後発性がほとんど。
ほかの施設は公的かどうか。
公的だが、運営は慈善団体が行う。ここと一緒だし考え方は日本と似ている。
スタッフは3人で事務をする人が0、5人。これが必要経費。資格はセラピストではなくて、社会教育士。
カリタスの職員か?
カリタスと労働協定を結んだ。その協定の中でここで働くことになっている。公務員と待遇はいっしょ。
場所は誰が選んだのか?
州が、このあたりに必要という判断をして、慈善団体に声をかける。どの団体も興味がないと州がやるが、だいたい慈善団体が手を上げる。運営費用は州から出るし、団体にとってもイメージがあがるのでやる場合が多い。イメージが上がれば企業や個人が寄付を出すようになる。
この建物の所有者は?
カリタスが所有している。これをこのデイケーに貸している形だ(経費は州で出るので)
自己負担や家族負担は?
昼食が5マルク、コーヒーが1マルク。コースは基本的に無料。材料費は取る。なぜかといえばお金を取れば来るので。家族などの相談もあるし、交流などもある。
設置の最近隣の反対は?
最初は反対があったが今では落ち着いて気た。見ていれば普通じゃないか!となってきた。
このような施設の存在をどのような形で知らせるのか。
病院の先生からの紹介が多い。もちろん行政にインフォメーションもある。
来るための手続きは?
来る人拒まずです。病院の証明も要らない。「誰がわざわざ好んできますか」ということだ。
ただ盗み癖があるような人はだめだそうだ。アルコールも禁止。
施設を案内してもらったが、本当に3部屋程度に事務室とトイレの簡単な施設だ。
私たちは、今日の長い視察日程を終え、夕闇迫るミュンヘンの繁華街に向かった。